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England's best pipe value

Astley : BALMORAL

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 久々にこのブログの主題に沿ったパイプもレビューでも、との事で今回は久々にイギリス製パイプを紹介します。


 どういう訳かいつの時代も静かに人気があるアストレイのパイプ。実はダンヒル製だったかもしれない、、アシュトン無名時代の仕事かもれない、もしくはジェームス・アプシャルの特別品だったのかもしれない、、、といった期待感がそうさせるのでしょうか。もしくはロンドンのジャーミンストリートの高級喫煙具店が残した幻の逸品というロマンがそうさせるのかもしれません。

 実はアストレイは良品を手に入れるのが結構難しいパイプではあります。以前このブログでも紹介したTUDOR ROSEといった低グレードの物はちらほら出ることもありますが、そこそこ上のグレードは稀です。こうした事情は同じロンドンのタバコ店であるFribourg & Treyerも似ています。リジェクト品ばかり出てきて、高級品があまり出てきません。ロンドンで高級パイプを買うのであればどうせなら、ダンヒルかチャラタンということだったのでしょうか。

 そしてアストレイの蒐集が難しい奇妙な理由が「計画的に偽物が作られた形跡がある」という疑惑です。これは、困った時に役に立つサイトPipemagazine.comのフォーラムで議論された話題で、確か最初にドイツのコミュニティで決定的な証拠を見つけた、という情報が出てから怪しさが確信に変わった、との事(当該フォーラム)。この偽物製作に関わったのがアストレイの権利をジェームス・アプシャルと同時に買い取ったMordechai  Ezrati氏と言われていますが真相は謎です。ただ、アプシャル設立者ケネス・バーンズ氏の息子であるケネディ・バーンズ氏が別のフォーラムでその事実について半ば認めてしまっているので、おそらくすべてが全てでは無いにせよ、無名パイプを削り取って本物のアストレイの刻印を打ち込んだパイプがかなりの数が存在し、それをebayで販売していたのも確かなのではないかと。しかも、故人となったEzrati氏に代わって残された夫人がそうと知らずに売っている可能性まで指摘されているのは闇深いです。(しかし、この2つのフォーラムは非常に面白いです。興味があれば時間がある時に読んでみて下さい。質問者のラスキンの格言に対してケネス・バーンズ氏が日蓮の格言で返すあたりは妙な教養の高さを感じます。)
 この贋作作りにジェームス・アプシャルの製作担当だったバリー・ジョーンズ氏本人が関わっていたのかはわかりませんが、もしそうだったのなら贋作ながらもある意味本当にバリー・ジョーンズ製作したアプシャル製のアストレイパイプもあったのかもしれません。しかし、そこそこの富豪がそのようなつまらない贋作で小遣い稼ぎをする理由がよくわからないのですけどね。ラルス・イヴァルソンやボ・ノルトやの偽物を作って3000ドルで売るというのであればわかりますけど。よく実情がわからないアストレイならばバレづらいというような理由はあったのかもしれませんが。個人的にはこの手のフェイクパイプにもどういう事情があってそれが生まれたのか興味があります。今現在でもトム・エルタンやヨーン・ミッケの偽物が流通しているというかなり信憑性のある情報も聞いたことがありますし、そういうケースは今後も少ないながらも出てくるのかもしれませんが。


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 さて、今回私が手に入れたパイプがこれ。古いポーチが付いた未使用品で例によって骨董商の露店で買ったものです。刻印の入れ方も古いカタログと一致していますし、恐らくは「本物」のアストレイなのでは、と。シェイプはリバプールかサドルビリヤード、でしょうか。結構大振なパイプです。

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 刻印からグレードはBalmoralという名前のようですが、これはバルモナル城に由来する名前なのでしょうか。カタログによれば、ストレートグレインのひとつ下のグレードのようで、高級なラインだったと思われます。
その説明もなかなか面白く、
These are top quality Briars. Each one is a perfect pipe chosen for the fine grain and beauty of the bowl. Only specially selected close grained root is used in the manufacture of the Astley Balmoral. The superb smoking qualities of this pipe are due to the high grade of briar root used and in considerable measure to the skill and craftsmanship which go to the making of an Astley Pipe. The mouthpiece is made from the best English vulcanite, handworked to give a comfortable grip.

というような文章となっており、ブライヤーの質について重点的にアピールしています。

余談になりますが、トップグレードのストレートグレインの説明はかなり独特で以下の文章が書いてあります。

These are superb quality briars with the hard and soft grains running parallel from the rim to the base of the bowl. Apart from being a real pleasure to the eye, the evenness and structure of the grain suffuses the tobacco juices evenly over the whole inner surface of the bowl thus producing a beautifully cool sweet smoke. Astleys possess a wide range of Straightgrains in varying sizes and shapes. Each Straightgrain pipe however is individual. An Astley's Straightgrain is the most prized possession of every true pipe smoker. There are many pipes whose grains may not be straight but give excellent sweet smoking; the Straightgrain is however unique.

 これまでに様々な媒体で高樹齢ブライヤー≒美味い、極乾燥ブライヤー≒美味い、というような説を聞きましたがストレートグレイン≒美味い、という説明を読んだのは初めてです。確かに、杢目が縦に一直線であれば、チャンバー内の微細な孔も限りなく360度均等になっているのかもしれませんが、それをタバコジュースが均等になるという理由を付けて旨くなるという説にもっていくところはなかなか独特で面白いです。いずれにせよ、アストレイ自体はブライヤーの質にはこだわっていた形跡は伺え、こういう点も後世のスモーカーが気になってしまう理由の一つなのかもしれません。

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 ステムの上にはAの刻印入りです。このあたりはどのグレードでも共通だったようです。

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 一番特徴的なのはこのステムの造りでしょうか。一応はハンドカットのようですがスリットの開け方が雑で、昔のイエローボール等でありがちな俗に言うプロペラ状のやつです。ただ、銜えた感じはそこまで悪く無いのも不思議なのですが。全体的な形はダンヒルに近いですね。雑ではありますががっちりしています。

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 テノンはこのような感じ。可も不可もなくといったところですね。ガタもなく隙間なく噛み合っています。

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 杢目も綺麗とは言い難いです。まあ、グレインに関してはダンヒルでも地味なものばかりなので、この程度であればまだ良い方なのかもしれませんが。しかも目立つ埋めも存在します。これで”fine grain and beauty of the bowl”の説明は無いだろう、とも思ったのですが、ボウルの下部から放射状にグレインが伸びているところをみると、そこそこ上のグレードのプラトー使用したパイプだった可能性はあります。もしかしたら、とりあえずはストレートグレインを狙ってみて、惜しくもそうならなかったものがバルモラルというグレードで販売していたのかもしれません。だとすると、大量生産のファクトリー製ではなく、少数生産の工房物だったのでしょうか。

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 正直なところ、造りはかなりちぐはぐな感じです。全体的な見た目、テノンの合わせ方、煙道の通り具合は悪くは無いのですが、ステムの造りや若干の埋め、等、高級感を損なう点も多々あります。
 しかし、このちぐはぐ感は何か既視感があります。どうにも雑な時期に作ったアシュトンにしか私には見えないのです。このパイプに関してはビル・テイラー製作のアストレイという答えが一番しっくりくるように思えますが・・・流石に確定とまではいかないでしょう。


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 吸い味に関してはなかなかのもの。バージニア系のタバコを詰めて何度か吸ってみましたが、しっかりと香りも甘味も出ているようです。とは言え、どうにも特徴がわかり辛い気はします。恐らくは「あっ、これはダンヒルと同じ味だ」とはならないと思いますが、ダンヒルも年代によって大分差があるので、これに関してもどうとも言えません。強いて言えば吸い味の点でもアシュトン説か?といった感じに思えましたが、自信を持ってそうも言い切れないのも難しいですね。

 総合的にはなかなかいいパイプではあります。しかし、特徴の乏しさはかなりのマイナス点でしょう。よく言えば英国製パイプの特徴を備えているとは言えるのですが、コモイ、サシエニ、GBD、チャラタンのような「らしさ」をもったパイプではありませんし、同じ英国のショップ系パイプでもFRIBOURG & TREYERのように独自性のあるデザインがあったようにも思えません。そして、ダンヒルが出自であるアシュトンやファーンダウンの路線とも違います。あれはあれでダンヒルの模倣ブランドに留まらなかったのでやはり独自性は濃く出ています。それらのパイプと比較するとやはり個性は薄いです。

 逆に考えると何故Astley'sの知名度がそこそこ残ったのかが不思議です。たまたまこのパイプが地味なだけで他に素晴らしい逸品があった可能性はあるにはあるのですが、そのようなパイプを写真でも見たことがありませんし。という訳で、このパイプは面白いことは面白いのですが、何かと複雑な気分にさせる1本でした。

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