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England's best pipe value

Roland : Sandblast㉕

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 前回に引き続き、今回も深代喫煙具製作所製のパイプで記事を書いてみます。このパイプは日本でもこういうパイプを作ってた時期があったのか、と驚いた一本です。


 深代喫煙具製作所は群馬県利根郡みなかみ町(旧新治村)に工場を構えるメーカー。あのあたりには何度か観光に行きましたがしみじみとしたいいところで私は好きです。隣は宿場町をリノベーションした「たくみの里」という地域になっており、今は道の駅も併設されているのでなかなか賑わっているところです。様々な雑貨や木工製品が売られていますが、個人的にはマッチ箱に絵を描くことが出来るカフェが面白かったですね。
 そして反対側の川向こうの街道沿いに湯宿温泉があります。熱い湯がこんこんと湧き出る名湯で私的にはいつか泊まってみたいぐらいに好きな温泉ではありますが、かなり熱いのでぬる湯派の人にはお勧め出来ません。つげ義春の漫画のファンにとっては「ゲンセンカン主人」のモデルになった温泉地としても有名ですが、今でもほんの少しはその雰囲気は残っていますね。モデルとなった宿は深代の工場の近くでうどん屋を経営していますが、セットが豪華で美味いです。

 今では群馬のパイプメーカーというイメージしかない深代ですが、戦前は浅草の鳥越に工房がありました。浅草のパイプと言えば柘製作所が有名ですが、戦前の時点では同じ町に工房があった訳です。ですので、一時期は職人の町、浅草に柘、深代、村田煙管と少なくとも3軒の喫煙具工房があったようです。とは言え、その頃の柘製作所はシガレットホルダーの工場で、戦前の時点でのブライヤーパイプの生産は深代が唯一の工場だったとの事。製造開始は昭和5年からとの事ですが、その頃の需要はどのくらいあったのか興味はあります。

 さてローランドパイプを知る上ではやはり㈱フカシロさんが公開したアーカイブ「楼蘭土」がいろいろと参考になります。当時の日本のパイプスモーキングについて知ることが出来る貴重な資料です。その中で個人的には以下の発言が興味深いです。

「どうして日本人は外国製のパイプをありがたがるんでしょうね。原材料は同じ、加工方法も同じなのに、メイド・イン・ジャパンでは格がおちると思っている。わからないですね」
「どこでつくろうと、いいパイプはいい。ストレート・グレインといっても、最後のみがきをかけるまではでてこないんですから。材質のもっている条件はどこでも同じですよ」

 これは当時の深代勉氏の談のようですが、イギリスやデンマークのパイプに全く引けを取らない製品を群馬でも生産可能である、という意気込みを強く感じます。しかし、失礼ながらその当時の輸入製品、特に(株)フカシロが輸入代理店であるスタンウェルに価格以外で対抗出来る物だったのか、とも自分は思ったのです。これを確かめるには古い製品を持ってきて比較するしか無い、のですが偶然手に入ったのでそれが可能になったという訳です。

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 さて、本題の今回のパイプですが、これがなかなか面白いもの。前回のナチュラルはなかなかの逸品でしたが、ある意味ではそれ以上の驚きがありましたね。
 まず、見ためからして凄いです。自分は刻印を確認するまでイギリス製のパイプかと思いました。小型のビリヤードながらも存在感があり、ままるでパテント期のダンヒル・シェルブライヤーのようです。

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 刻印はこのような感じ。「楼蘭土」によるとサンドブラスト㉕というグレード名だったようですが、㉕の数字はなんの意味なのかよくはわかりません。横にはSUPER OLD BRIARの刻印は深代製のパイプで良く見かけるものですが、どのくらい古いのかは流石に判断しようがありません。ちなみに昭和50年当時の価格は4500円との事。

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 細かい造りは流石は深代といったところ。スリットがより広がっていればより良かったですが、全体的には60年代のイギリス製の一流どころのパイプと比べても遜色は無い造りでしょう。フィッシュテイルビットではなく、ストレートビットなのもスマートで良い雰囲気です。テノン側にはネジが切られているので、何らかの金属フィルターが付属していたと思われます。

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 何といってもこのパイプの最大の特徴はこのサンドブラストの仕上げでしょう。これはダンヒルであればパテント期並みの豪快なサンドブラストです。どうやら全盛期のダンヒルやバーリングと比較しても遜色の無いサンドブラストが可能だったことは確かなようです。これだけ深くサンドブラストを吹いていてもシェイプの崩れがほとんど無い、というのは凄い技術です。

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 しかし、サンドブラストの再評価の流れは近年のアメリカのハンドメイドパイプやヴィンテージパイプの隆盛以降だとも思うので、このパイプが作られた当時にサンドブラストの深さや豪快さについて評価されていたのかどうかはわかりません。もし、このパイプと同等のサンドブラスト加工を施せる技術が現在の深代製作所さんにもあるのであれば、アメリカあたりのパイプスモーカーにも大いに注目されるとも思うのですが。

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 ちなみに60年代のダンヒルのシェルと比較するとこのような感じになります。これが群馬県産のパイプで、しかも当時4500円の価格で実現できたというのですから驚きとしか言いようがないです。

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 では吸い味も舶来品と同等なのか?となると、これに関しては難しいですね。吸い心地としては非常に吸い易く、欠点はほぼ無いです。問題は味の傾向。それをを良く言えばクセの少ない味わい、という事になりますが、逆に言えばやや特徴に欠ける味です。無論、詰めるタバコによっても変わりますが、自分が良く吸うヴァージニアフレーク等ではやや物足りなさを感じました。ちなみに前回紹介したナチュラルと比較してみると、ナチュラルの方が甘い煙が味わえる、、ような気はします。そのナチュラルの記事でも似たような結論になっていますが、それよりも格段に薄味に感じるようです。故にアタリのダンヒルやサシエニに比べると吸い味は流石に見劣りします。では、60年代ぐらいのスタンウェルと比べる、となるとやはりスタンウェルの方がやや上・・・ですかねえ。こちらも僅差ではありますが甘さで負けます。
 これは味わいのベクトルが違うので比較対象としては適切では無いのかもしれませんが、単純な甘さでは勝負になりません。しかし、60年代、70年代のイギリス製のパイプでもハズレはある訳でして、それらのパイプと比べるとこのローランドの方が上のような気もします。

 何といいますか、やはりパイプの相対的に評価するのは難しい、と今一度考えさせられる一本でした。外観、工作精度ともに60年代以前のダンヒルに勝るとも劣らぬ製品でも、味わいでは同じ土俵の勝負とはいかない、という点は興味深いです。となると、残る要素はブライヤー自体の質やキュアリング、もしくは経年変化という事になりますが、これに関してはまだまだ謎がありそうです。
 
 そういう訳で、今回も非常に興味深い一本でした。今後、使いこむことによって吸い味が向上する可能性もありますが、このパイプに関しては現状ではこのような感想になりました。一つ言えることは昔の深代のパイプはなかなか面白いという事です。機会があれば一本手に入れてみるのも悪くないと思います。


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コメント

おひさしぶりです

おひさしぶりです。
地道に更新を続けてられてますね。
またどこかのイベントでお会いできればと思ってます。

どうもどうも、本当にお久しぶりです。
以前はいろいろと大変お世話になりました。
私も是非ともまたお会いしたいところです。
なんといいますか、語りたくともウェブ上では
なかなか出しにくい話というのも沢山ありますので。

ちなみに今になってわかってきたことは、
やはりパイプスモーキングはかなり特異な趣味だ、
という当たり前な事実、ですかねえ。
良くも悪くも他の趣味性の強いアイテムと比べると
相当変な世界だと言わざる負えない、とつくづく思います。
まあ、そこが最高に面白い点ではあるのですが・・・。

具体的な問題点を語ると長くなりますが、
簡潔に言えば今のパイプスモーキング業界は
選ぶ楽しみが格段に増えた分、
安定感のあるスタンダード言える存在が皆無になっている
ような気がしてなりません。
これは以前から初心者むけのガイド記事を書こうと文章を
温め続けていたのですが、
そろそろ書こうかなと、今の情報を集めてみると、
あれ、、初心者向けに今お勧め出来る
パイプを紹介するのは現在ではこんなに難しいのか、、
と少々驚いてしまった訳でして。
まあ、私が心配する事ではないのかもしれませんが、
このあたりの記事も近い内に公開したいところです。

パイプやタバコのネタ自体はまだまだありますので、
可能な限り更新するようにしたいと思います。
ではまた。

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