Roland : NATURAL


今回は珍しく日本製のヴィンテージパイプを紹介します。あまり語られる事の無い日本のマシンメイドパイプですが、これはこれでなかなか面白ものです。
かれこれもう10年以上前になりますが、その頃はネット上の様々な場所で美味いパイプの要因について多種多様な説が主張されていました。今では落ち着きましが、以前は良くも悪くもそれについての議論が盛んでしたね。主な説としては
1.カーボンケーキによる水分の除去。
2.ブライヤーの乾燥。
3.煙道の大口径化によるエアフローの向上。
4.サンドブラスト、ラスティックによる冷却効果の向上。
5.染料、ワックスなしの仕上げによるブライヤーの呼吸の促進。
6.長い煙道で煙を冷却。
7.高樹齢ブライヤー(100年以上?)による風味。
8.ブライヤーの産地による味わいの差。
9.オイルキュアリングによる強制的な樹脂の除去。
、、とざっと思いついただけでこのぐらいはありました。
故に一昔前は、多孔質のカーボンを付ける為に苦労したり、パイプを乾燥剤入りのタッパーに入れて保管したり、吸い味がいまいちなパイプの表面を削って白木ラスティックにしてみたり、いっそのことオリーブオイルで素揚げしてみたり、、、といろいろと試している方が居たように記憶しています。もしくは作りは悪くとも高樹齢のブライヤーが期待出来る大昔のパイプを手に入れる、というようなこともありました。今となってみるとなんだかやりすぎな気もしないでもないのですが、これはこれで面白い実験だったと思ってはいます。まあ、既にそれぞれの答えのようなものが見えてきてた方々にとっては「そんなふうに考えていた時期が俺にもありました。」と懐かしむだけかもしれませんが。
私としてはこれらの試みは無駄だったとは思いませんが、極端な意見が多すぎたのは問題だったような気はします。確かに、ラッカー仕上げのパイプを白木仕上げにすれば多少の吸い味の差が出てくる可能性はりますし、カーボンによる吸い味の変化はあるにはあるでしょうけど、これで大幅な吸い味の向上が望めるかとなればどうなのかなと。残念ながら元から造りが良くて味も良いパイプに敵うとは思えず、現に自分に合ったパイプが2、3本と揃ってくるとあまり深い事は考えないようになるのかもしれません。要はインターネットから情報を得て始めたパイプスモーカーの第一世代が落ち着いてくると、この手の議論が鎮火していったのではないか、と私は考えていますが、、真実はわかりませんね。
まあ、要は何を信じるか、、という事なのでしょうけど、私の意見としてはもう少し多面的に考えるべきだったと思っています。パイプは1つ2つの要素で成り立っている訳ではありませんし、まだまだわからない点もあります。そして実用だけ考えて外見を無視するという姿勢は自分にはとても出来ません。100パーセント確実に美味くなる要素を考えるというのは無駄では無い試みでしょうけど、安易に考えすぎるのもどうかな、とは思いますね。


さて、今回のパイプは深代製作所製のローランドの最上級グレードだったらしい?ナチュラルです。何故前置きにこのような昔話をしたのかと言うと、このパイプをその頃に発見していれば、大いに参考になったのではないかと思えてきたからです。
ローランドは昔から日本のパイプスモーカーに親しまれてきた頑固一徹なメーカー。日本初のブライヤーパイプを量産したメーカーとの事ですが、初期の製品は資料も現物も見たことが無いのでどういうものなのかはわかりません。ただ、古物の出物だと柘製作所のエスターブロックやエスタードはかなりの量が出てくるのに対し、ローランドは数が少ないのでシェアが拮抗してくるのは70年代以降ぐらいなのかもしれません。このパイプがどのぐらいの時期に作られたのか、明確な資料が無いので良くはわかりません。昭和50年発行の「楼蘭土」には出ているので恐らくは70年代後半か、といったところでしょうか。シェイプナンバーはありません。
最初に手にした際はごくありふれた古パイプの一本に過ぎないだろうと思っていました。ですが、綺麗にしていくうちになかなか凝りに凝ったパイプであることがわかってきたのです。

まず最初に目についたのはこの刻印です。"CENTURY OLD MEDITERRANEAN BRIAR ISRAEL"と刻印されており、文字通りであればイスラエル産の樹齢100年ほどのブライヤーを使用した事になります。一時期のローランドパイプに見かけた刻印のようですが詳細は不明です。これはたまたまイスラエルから良質なブライヤーが手に入ったという事なのでしょうか?イスラエルのパイプと言えばアメリカでAlphaというブランドで盛んに売っていたShalom Pipe Factoryが唯一のメーカーだったようですが、それとなにか関連があるのかどうか気になるところです。


内部はこのような感じ。ダンヒルのようなアルミチューブ仕様なのにテノンは2段。これはイギリス系のパイプのディテールを上手く取り入れています。アルミチューブは煙道のヤニ防止以外の意味は無い、と私は考えていますが、工作精度の点で言えば出来るだけ真っ直ぐに煙道を開けなければならないので、そういう点では一つの指標となりえるのでは、とも思います。
そして、アルミチューブ仕様のパイプは必然的にチューブ径以上の煙道を確保しなければならないので、太目の煙道になる事が多いです。特にこのパイプは極太で、好みは分かれるかもしれませんが、太目の煙道にエアフローを期待するスモーカーにとってはありがたい造りです。


テノン周辺やリップの仕上げ等は非常に丁寧。このぐらいの工作精度であれば当時のイギリス製のパイプと比べても遜色は無いでしょう。リップの形状としてはGBDの一部の製品に採用されたものに似ています。


仕上げはナチュラルとの事で、染料は無いようです。恐らくは新品状態でもワックスも極微量か全く無しかのどちらかだったのでしょう。今回はスチームで汚れ落としをしただけで、カルナバワックスはかけていません。色もツヤもこれで十分ではないかと思います。この手のパイプは汚く汚れるだけかと思っていましたが、上手く扱われたパイプであればこのぐらいの色艶には育つようです。とは言えグレインは地味そのものでそういう点では70年代ぐらいのダンヒルのルートブライヤーに近い印象もあります。

ただ、完全にフローが無いという訳では無いようなので、大きめな埋めはあります。とは言え、処理は丁寧なものでそこまで気にはなりません。ちなみに前述の「楼蘭土」によれば価格は6000円とのこと。翌年発行の号でスタンウェルの一番下のグレードが7500円となっているので位置付けとしては高くもなく安くもない中途半端感はあります。ただし、このパイプに関しては埋めがある事以外は同年代のスタンウェルと同等かそれ以上の品質ではあるのでお買い得だったのかもしれません。
さて、ここまできて何故10年ぐらい前の昔話を書いたのか、という事になりますが、それはこのパイプが可能な限りその頃に出た様々な説の「全部のせ」に近いと思ったからです。樹齢は100年以上、仕上げはほぼ白木、長さは150㎜以上あり煙道も太い、、とかなりの条件を満たしています。しかも頑固なスモーカーに支持者の多い深代製であれば文句の付けどころがありません。これをさらにオイルキュアリングした上に彫りを入れて厚くカーボンを付ければ完全に全部のせになりますが・・・そこまでやる勇気は自分にはありませんね。
では結果である吸い味はどうなのか?というのが重要な点なのですが・・・端的に言えば、香り立ち重視で甘さ控えめといった感じになるかと。太目の煙道故にエアフローはすこぶる良いですし、銜え心地も良好。クセの無い上品な吸い味です。理屈倒れではありません。
チャンバー径は18㎜程度なのでヴァージニアフレーク向きかとも思ったのですが、味の傾向的には昔のバルカンソブラニーのような繊細なラタキアブレンド方が向いているような気はします。これは日本のマシンメイドパイプもモノによってはかなりの水準に達していた、ということなのかもしれません。
しかし、他と比べてどうなのか?となるとやや難しくなるかと。他のヴィンテージパイプ、特に古いイギリス製のパイプとの比較であれば、調子の良いダンヒルやサシエニと比べると流石に味は薄く感じますし、コモイのような重厚さは感じません。もしくはケイウッディーやイエローボールのような古いアメリカ製のパイプのような飛びぬけた甘さがある訳でもありません。無論外観はごく普通で現在のアメリカ製ハンドメイドような華やかさもありませんし。なんといいますか、真面目に作られた良いパイプには違い無いのですが、飛びぬけた独自の個性も無い、とでも言いますか。
まあ、これは完全に好みの話です。特に欠点らしい欠点の無い素晴らしいパイプには違いありません。これまでに試してきたパイプの中ではノルウェー製のリレハンメルに近い印象を感じました。これが10年程前にデットストックの新品が相当数発掘されて上手く紹介出来る方が居たならば、サビネリ・シーコーラル並の伝説のパイプになりえたのかもしれない、、とも思います。私としては今一度、貪欲に吸い味について議論してみるのも面白いかもしれないな、と感じた一本でした。
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