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England's best pipe value

Ashton : Brindle #212 XX

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今回のパイプはアシュトンです。数年前ぐらいから妙に気になっていた工房ですが、最近になってやっと手に入れることが出来ました。このブログとしては珍しく、ごくごく最近になって作られたパイプのレビューです。

Ashtonは元ダンヒルの工場長だったWilliam Ashton-Taylor氏が1983年に創業したパイプブランド。少年時代からダンヒルの見習い工員として床掃除からスタートし、独立初期の頃はデパートで小型工作機械を使ったパイプの製造実演をやっていたり、ロンドンのタバコ店Astleysのヴィンテージパイプ修理を行っていたり(この辺りからアストレイ=アシュトン説があるらしいですが)と、居そうで居ない生粋のパイプ職人だったようです。その後にダンヒルパイプの専門家?で、イタリアンパイプを中心に扱っていた、アメリカの輸入業者R. D. Fieldの社長、David Field氏が米国向けのパイプの製作を打診して今のアシュトンになったとの事。ダンヒル式のオイルキュアリングを復興させた事で有名なこのブランドですが、詳細を知るとより面白いですね。詳細についてはDavid Field氏の回想録が非常に面白いです。

この話でいろいろと詳細についてわかります。様々なイタリアの工房を見学した際のラディーチェを参考にカプチーノ用のマシンでスチーム工程を追加してみたり(後のパテントGB2176742)、古いバーリングを参考にクワントっぽいのを作ってみたりと試行錯誤が面白いです。今はどうなのかしりませんが、旋盤担当だったSid Cooper氏がダンヒル傘下になる前のハードキャッスル出身だったりといろいろと興味深い情報も書いてありますね。まあ、要するにアシュトンは厳密には一人のハンドメイドパイプ作家のブランドではなく一つのチームといった感じだったのでしょう。
ここで重要な点は実は生粋の英国生まれのブランドでは無く、アメリカで企画した上でイタリアンパイプの製造工程も大いに参考にした点でしょうか。これはなんでも一通りこなせるテイラー氏の技術があってこそのアシュトンだったのでしょうけど、ヴィンテージパイプにもイタリアンハンドメイドにも造詣が深く、いい意味でダンヒル馬鹿だったDavid Field氏が営業に関わっていたから現在の形にまとまったとも言えるのではないか、と。なんといいますか商売には違い無いのですが、パイプが本当に好きなんだなあという感じが伝わってくるといいますか。さらに言えばMcCranie'sを始めとしたアシュトンと親交があったアメリカの小売店の影響もあったでしょうし、そのMcCranie'sが得意としていたマクレーランド製のタバコとの相性もなんらかの関係はあるのかもしれません(マクレーランドのカタログでアシュトンのパイプがオブジェに使われたこともあります)。そういう点を考えるとアシュトンはアメリカのスノッブなスモーカーが考える英国製パイプを体現したもの、というのが本質なのかもしれません。
どういう経緯があったのかは知りませんが、R. D. Field社とのパートナーシップは2003年に解消されているようです。どうもこのあたりから近年のアシュトンにありがちな極めて雑な製品が増え始めたような気もしますが、その真相についてはよくわからないですね。

ちなみに私はアシュトンというパイプ自体は海外からパイプを買い始めるようになった頃に知りましたが、その頃はあまり興味の無いブランドでした。その理由は簡単で、あまり知識が無かったからとしか言いようがありません。ダンヒルのオイルキュアリング云々という知識はむしろ古い英国製パイプを買い始めてからああこういうものなのか、と実践で理解が深まった訳でして。要はその当時の自分にはあまり実感がなかったという事です。むしろヴィンテージパイプの知識があってこそ興味が沸いたと言えます。ある意味、ヴィンテージパイプファンとモダンハンドメイドファンの橋渡し的なブランドと言えるのかもしれません。

さて、1983年より続いてきたアシュトンですが、2009年にテイラー氏本人が他界してしまいました。一時はブランド存続の危機かとも思われましたが、実際はスムーズに代替わりとなったようで、今はJimmy Craig氏の下で工房は作られているようです。
その結果、徐々にではありますが製品に変化はあるようです。私が見て思ったのは
・ 深いブラストやカラーステム等、見た目が派手になった
・ XやXXといった少し小さめなサイズが増えてきた
・ 若干品質が安定してきた
という感じはします。何十本と実物を見て比較した訳ではないので断定とまではいきませんが、いろいろな店に入荷する写真を見る限りではそう思えますね。特に小さめのサイズが増えたのは私としては嬉しい点です。

興味はあったアシュトンですが、なかなか買う機会はありませんでした。理由はシェイプ、大きさ、造り、の3点で自分が納得できるパイプが少なかったから。正直な話、なまじ本数が多くなるとどうでもいいから一本とはいかなくなるものです。そう思っていたところ、八王子で行われたパイプフェスタの京該さんのブースで、自分の好みと品質、そして価格に納得がいった物があり、購入に至ったという訳です。思えば前回のパイプフェスタで買おうかどうか悩んだのもアシュトンでしたが、今回は無事に目的を果たしたと言えます。

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シェイプはビリヤードとポットの中間点といった感じ。地味と言えば地味ですが、こういう飽きの来ない定番シェイプは何本あってもいいものですね。本家ダンヒルが得意としてた系統のシェイプだけに、シンプルながらも独特の格好良さがあると思います。最近に作られたパイプとしては結構小さめなものでしょう。

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刻印はこの通りです。底は平らなので置いても転がることはありません。このディテールは昔見た時は気が利いているなあ、と自分は思ったものですがヴィンテージパイプ収集が日常となった今ではむしろ底が平らではない方に違和感がありようになりました。
グレード名、Brindleの通りステムはカラーエボナイトを使用したブリンドルステムです。このオリーブ色の材料は最近の流行なのか様々な作家の作品で見かけるようになりました。私としては気に入っていますが、ちょっとこの色は好みが分かれそうです。

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近年のアシュトンの最大の欠点はステムの造りでしょう。ハンドカットで作られた手作り品には違いないのですが、悪い意味でも手作り感溢れるものが多いらしく、中にはびっくりするほど低クオリティーのステムが付いていたりもするようです。ただ、このパイプのステムに関してはその点は改善されていますね。流石にダンヒルのステムのような完全無比なものではありませんが、スリットの造りや銜え心地は良好でしょう。各部を面取りした上で入念に研磨すると高級ハンドメイド並のステムになったのではないかとは思うのですが、それが出来ないところがアシュトンらしい、と言いますか。

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吸い味ばかりが注目されがちなアシュトンですが、サンドブラストの面白さも魅力の一つでしょう。ダンヒルのシェルを基に製作されているだけに、今や珍しくなった英国流のサンドブラストが楽しめます。ただ、今までいろいろと見てきましたがどうにもそのブラストにもバラツキはあるようです。このパイプに関してはかなり良い出来と言えるかと。

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しっかりとリンググレインが出ています。Brindleグレードはアシュトンの一般的なサンドブラストグレードであるPebble grainとは少し違うステインらしく、赤褐色のステインをしています。表情はパテント期のダンヒルを彷彿とさせますが、派手な色はモダンな北米ハンドメイドらしくもあります。

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さて肝心の吸い味なのですが、まだまだ慣らし状態ではありますがこの時点でもかなり良好。独特の風味もありますし、なんといっても甘さが強く出ます。ただ、これがダンヒル・シェルのあの臭さと甘さか?となると違うとは思いますが。使い込めば似た感じになるのかもしれませんが、現状では本家よりあっさり風味。ですが、むしろこの方がアシュトンの個性が出ていていいような気もしますけどね。物によってはダンヒル・シェルはあの臭さがクドく感じるぐらいに風味が強いですが、このアシュトンはそこまでクセは無いので、ある意味こちらの方が楽しめるという方も居るのではないでしょうか。

なんと言ってもこのパイプの最大の利点は吸いやすさです。特に構造に変わった点も無く、良い造りとは言ってもそこまで入念に内部の造りが良い訳でも無いのですが、エアフローも銜え心地も最高クラス。ブレイクインには良く揉み解したマクレーランド・クリスマスチアー2011を詰めてみましたが、2,3度の再着火でとろ火のまま底まで灰に出来ます。元々が燃焼が緩慢なタバコですが、よりスローに吸う事が可能ですね。何度かは再着火無しでロングスモーキングの上位記録ぐらいのタイムが出ました。それでいて、吸い味は飽きずにちゃんと最後まで安定しているというのには驚きましたね。これは狙って作られた、というよりもイレギュラーに使いやすいアシュトンに仕上がった、という事なんでしょうか。

まあ、多少工作に難があるにせよ、見た目、味、コストパフォーマンス、とトータルで考えると素晴らしいとしか言いようがありません。確かに、このようなパイプが現在も作られているのであれば人気が安定しているのも頷けます。品質が安定しない事で有名なアシュトンだけに当たり外れがあるかとは思いますが、今回は大当たりと言ってよいかと。このぐらいのパイプであれは、是非とももう一本欲しくなります。特にブルドック、スクワットブルドック等は欲しいところです。


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コメント

更新おつかれさまです。

Ashtonについての情報が、非常に詳しくまとめられていて
さりげにweb上の日本語資料としては最も詳しい読み物なのではないでしょうか。

それにしてもこのPotかっこいいですねぇ。
エンジニアリングも(珍しく)良いうえに、ブラストの表情も素晴らしい。
オリーブカラーのステムも私は好きですね。

以前smokingpipesにて、同じようなPotボウルで
Lovat様にシャンクが長い、GBDの#9493に似たAshtonが
売られていましたが、あれがもう一度出たら是非手に入れたいと思っています。

Re: タイトルなし

毎度コメント有難うございます。

こうして改めて考えてみるとアシュトンはただ単に
オイルキュアリング時代のダンヒルの復刻パイプという訳でも
無いのかなあ、、とも思えてきました。
実はイタリアンパイプの影響も大きいですし。

まあ、このぐらいの品質でサイズが小さめで200ドル前後のものであれば、
現行品のアシュトンはかなりお買い得かと。
最近は品数も豊富になってきましたことですし、今後も面白くなりそうです。

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