S.ARITA : 86

今回のパイプはこの有田静生氏の作品。このブログでは初の日本製ハンドメイドパイプの紹介になりますね。パイプを集め始めると唐突にいいパイプが手に入ることもありますが、このパイプもそんな感じで自分の手元に落ち着いた一本。これもなにかの縁でしょうか。

好事家が多く集まる奇特な国、日本。元々パイプ喫煙の土壌がそこまで無かった極東の国だった訳ですが、60~70年代のダニッシュハンドメイドのブームにより少ないながらも本場デンマーク並の高品質のハンドメイドパイプを製作する方が出てきたのは趣味人の多い日本らしい現象のような気がします。
それから40年あまりが経過した現在では、当時以上に日本人パイプ作家が多くなっているのも面白いものです。この間に日本のハンドメイドパイプが亜流ダニッシュハンドメイドからジャパニーズスタイルというものを確立したのかどうかはわかりません。ですが、有田静生氏の作るハンドメイドパイプはかなり日本的な印象がするように思います。

有田静生氏についてはもう説明するまでも無いでしょう。恐らくは日本のパイプスモーカーが好きな日本人作家パイプとなると、この有田氏の作品が一番人気があるのではないでしょうか。私は最初にパイプを買ったお店で氏の作品を見て以来、いつかは手に入れたいものだと思っていましたが、なかなか機会がありませんでした。
今回のこのパイプは86年製のもの。当時、新宿の加賀屋さんで売られていたものでしょう。既に20年以上も前の作品で、現在の作風とはやや異なるような。全体的な印象は初期のダニッシュハンドメイド、というかやはりシクステン・イヴァルソンの作風に近いような気がしますね。とは言え、数々のディテールからすぐに有田氏の作品であることがわかるとは思います。
さて、ハンドメイドパイプと一口に言っても様々なモノがありますが、このパイプはかなり実用性を意識した上で凝りに凝った造 りになっています。


まず、ベントでありながら煙道はほぼ直線となっているので、銜えた時のバランスとエアフローの良さを両立させています。これは初期のダニッシュパイプの発想とほぼ同じですね。銜えた状態での視点は大体右の写真のような感じになります。写真の通り、ボウルトップが良く見えるので着火は極めて容易。これも重要な利点でしょう。

底は平らなので置いても倒れません。パイプレストを使っている方には無用の心遣いなのかもしれませんが、置けるか置けないかでは使い勝手がかなり違うものです。


テノンは有田氏のパイプで良く採用されているテーパーブッシュ。モーティス側は角材で作られており、さらに金属リングで補強するという相当手の込んだ造りです。これならかなりの長い年月使い込んでも狂いが出ないでしょう。少なくとも現状では不具合は全くありません。このあたりの仕事に氏の作品らしさが強く出ている気がします。ステムの造りは流石にいいですね。絶妙の薄さで銜え心地も素晴らしいものです。


ちなみにレストア前のステムはこんな感じでした。テーパーブッシュステムはステムが磨きやすいというのも大きな利点で、このぐらい変色していても、シャンク付近の段差を気にせずに真っ黒に磨き上げることが出来ます。まあ、エボナイトが減るということ自体には変わりは無いので注意は必要ではありますが。


ラフトップが特徴的なボウル。全体的なデザインとしてはやはりダニッシュパイプに強く影響されたものには違いないのでしょうけど、どことなく和風な感じがするような気もします。無論、ハンドメイドパイプに重要な要素である握り心地の良さも素晴らしいものです。


グレインはやや乱れがありますが、、場所によってはこの美しさ。思わず惚れ惚れしてしまいます。こういうディテールはハンドメイドパイプならではと言ったところでしょう。
では、吸ってみてどうなのか?うーん、これは理屈倒れじゃなくて、かなり使いやすいですね。銜えっぱなしでも全然負担はありませんし、煙の流量も多すぎず少なすぎず。ちょっと狭いチャンバー径も自分には合っています。
まあ、そんな理屈は抜きにしても相当旨いパイプには違いありません。実際のところハンドメイドパイプの最大の不安要素は単純に吸って旨いかどうかなのですが、このパイプに関しては薄味過ぎないしっかりとした味は出ています。特にヴァージニアフレークで吸うと美味しいですね。まあ、全盛期のダンヒルやコモイのような強引にタバコの味わいを捻じ曲げるような強い吸い味ではありませんが、逆にそれが飽きずに最後まで吸い続けられる利点でもあります。これは20年以上の経年変化というのも原因なのか、元々のブライヤーの品質が要因なのか、、理由はわかりませんが、エアフローが良いだけで味のしないパイプじゃないことは確かです。
結論としては見た目も吸い味も素晴らしいパイプだと思います。あらゆる点で練りに練られたパイプで、いかにも高品質なハンドメイドパイプを吸っているんだ、という気分にさせてくれます。
まあ、今回はベタ褒めで終わっていますが、それだけ欠点が見当たりません。強いて言えば、この有機的?なデザインに好みが分かれる、もしくは吸い味がややパンチに欠ける、ということぐらいでしょうか。結果としては大満足。非常に気に入ったので週に1回ぐらいの比較的高い頻度で使っています。そんな訳で、綺麗なハンドメイドながらも完全なワークホース的なパイプとなりました。これから末永く活躍してくれることでしょう。
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