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England's best pipe value

Savinelli : Punto Oro #504

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 恐らく、日本国内で一番メジャーなイタリアンパイプはサビネリでしょう。サビネリ社のパイプは昔から気にはなっていたのですが、今まで試す機会がありませんでした。どうせなら古くて高級なやつが欲しい、と思っていたところ手に入ったのがこのパイプです。

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 サビネリ社については有名メーカーなのであえて説明する必要も無いとは思いますが、公式サイトを読むとよりこのメーカーについて知ることが出来ます。詳細かつ面白い内容なのでなかなか楽しめると思います。
 アメリカ市場でイタリアンパイプと言えばどうしてもカステロが一番人気のようで、それ以外のメーカーは一部のハンドメイドの除いてあまり話題になりませんが、このサビネリの高級グレードはマシンメイドながらもそこそこの評価は得ているようです。イタリアのメーカーらしくブライヤーの質にはこだわりがあるのも特徴ですね。昔のカタログによれば高品質のサルディニア産ブライヤーを少なくとも2年以上乾燥させてから使用との事です。今はコルシカ産のブライヤーも使っているようですが、Extra Extraグレードのみを使用とブライヤーの質をアピールする姿勢は変わっていないようです。

 ただ、、グレードが多すぎてちょっとわかりづらい気が。昔から今に至るまで廉価な普及品からカステロ並の価格の高級品まであり、ダニッシュハンドメイド全盛期の時点で既にハンドメイドラインすらもっています。一部高級品があったとしても、やはりこの幅広いレンジがスノッブなスモーカーにとってあまり好ましくはなかったのかもしれません。現在の製品ではフィルターパイプが多いのも難点でしょうか。シェイプはオーソドックスなイギリス風クラシックシェイプとなかなか格好の良いもので、面白いとは思うのですが。まあ、どうせ手に入れるのであれば古い製品かつ上のグレードのブルドックが欲しかったので、このPunto Oroを手に入れてみました。

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 このゴールドドットが誇らしげなPunto Oroはサビネリの製品の中でも高級グレードに位置するものでしょう。流石にハンドメイドのAUTOGRAPHやマシンメイド最高級品であるGiubileo d'Oro(GOLDEN JUBILEE)には及びませんが、通常のラインで作られる中では一番高級なものだったようです。しかし、一口にPunto Oroと言っても異常に種類が多いのが面白いですね。他のメーカーであれば違うグレード名を付けるのが普通なのですが、サビネリのこのグレードはスムース、サンドブラスト、ラスティックと様々なフィニッシュが用意されています。フロー無しの完品にのみにゴールドドットを付けて、あとは下位グレードに回すといった手法なのでしょうか。

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 さて、Punto Oroはほぼ同じ刻印を打っていたようなので、シェイプナンバー以外の明確な情報はわからないのですが、このパイプはステイン無しの深いラスティックなのでPunto Oroの中でもより高級だった?SEA CORALと呼ばれるフィニッシュなのだと思います。社史によれば登場したのは60年代のようです。
 ちなみにミラノのサビネリ社に写真を送っておおよその製作時期について問い合わせてみましたが、詳しくは特定出来ないとの事。1993年から2003年の10年間はシーコーラルの供給をしていないらしいので、それ以外の時期としか断言できないとの意見でした。今ではその2003年から復刻した?Corallo仕上げPunto OroやAchille's favouriteという最高級ラインの製品でチラホラ見かける事もあります。一時期はかなり珍しいパイプだったようですが、ヴィンテージパイプの取引きが盛んになった現在ではそう手に入らない訳でもなさそうです。流石に未使用の新品では難しいですが、程度の良い中古であればebayで数ヶ月で何本かは出ますし、相場もそう高いものではありません。

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 しかし、このシーコーラルについてはいろいろと噂話があったようですね。特に白木仕上げと深いラスティックにその話題が集中していたように思えます。表面積が大きいので冷却効果が期待できる、もしくは白木故に通気性が良くなる、といった具合に。
 あまり信憑性のある資料が無いので詳しいことはわかりませんが、wsb氏のブログ"mug of the pipe, by the pipe, and for the pipe"で掲載されている当時の冊子はメーカー元の情報であり参考にはなりそうです。
使い続けるとメシャムパイプのような色になる、水洗いするとイヤな臭いがとれる、というような事が書いてありますが、ここで注目すべきは冒頭の以下の文章なのかもしれません。
A particular workmanship out of rare quality briar allowed us to carry out a special treatment for opening in all depth the pores of the wood.
The sea coral pipe oozes through and gives a delightful smoke, right from the first put.
 自分はあまり翻訳に自信が無いのですが、これは解釈のしようによっては最高級ブライヤーをなんらかの方法でキュアリングしたと書いてあるようにも思えます。一服目から美味い、ってのもキュアリングパイプの常套句ですし。ただ「すべての深さで木の孔を空ける特別な処理」というのがどういうものだったのかはわかりません。新品状態でボウル内が全くの無色だった事を考えると、オイルにドブ漬けして加熱するというようなやり方では無いとは思います。となると長時間放置するエアキュアかスチームかなにかでキュアリングしたものでしょうか。全くの検討違いの可能性もありますけどね。
ちなみに、現在のサビネリ社の説明では、
Corallo pipes can only be made of rare quality briar. they are porous so they require no breaking in and will colour like Meershaum. Coraòòp pipes are hand made by a secret process and have superb smoking qualities.
As Corallo briar is so rare, production of this pipe is unfortunately very limited.
と書いてあり、どうにもハイクオリティーなブライヤーに一番の秘密があるように思えてきます。まあ、メーカーの説明を鵜呑みにするかどうかで解釈は異なりますが。

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 特徴的なラスティック。どうにもこのラスティックも製作年代、もしくは作り手による変化はあったようで、深く細かい製品と浅く大まかな製品とがあるようです。まあ、経年変化で磨耗してしまったものも多いようなので一概にはどうとも言えませんが、比較的古い製品の方が彫りが細かいような気がします。
この手の白木のパイプは写真うつりが非常に良くないように思うのですが、実際に手にとってみるとなかなか凄まじいものです。彫り自体は細かいですが谷になっている部分はかなり力強く彫られていて、こういう程よい手作り感が個人的には気に入りました。ブルドックらしくハチマキまで彫ってあるのもいいですね。

 表面の色は完全に染まっているのか、新品時の色とはまるで違います。私としては白木パイプは新品時が一番綺麗であとは汚くなるだけだと思っていましたが、このぐらいの変化であればなかなか味があるようにも思えてきました。サビネリ社の説明によれば水洗い出来るとの事ですが、流石にそれはやっていません。ですが、手入れが簡単なのはまんざら嘘でも無いようで、ワックスの落ちを気にすることなくスチームで汚れ落としが可能です。要はお茶でも入れる時のついでに、沸かしたやかんの蒸気をあてて布で拭えばそこそこ綺麗になる訳でこれが最大の利点と言えるのかもしれません。まあ、やりすぎるとブライヤーが若干膨張してしまうかもしれませんが。ちなみに、今回はバフ掛けはやっていません。個人的にこの手のパイプのラスティックの頂点が黒くテカるのが好きではないので、あえてマット仕上げにしてあります。磨耗させるのも良くないですしね。

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 このパイプの欠点はステムの出来。薄く作られたリップ周りの造型や英国風の2段テノンで一見は良い造りなのですが、細かい仕上げはいまいちで、Comoyで言えばEveryman、Sasieniで言えばOld England程度のものでしょう。高級品と言えどもダンヒル等のステムには遠く及びません。特にガチガチに硬いエボナイトが自分には合っていないようです。滑るので慣れるのに一苦労しました。

 さて肝心の吸い味。今のところの感想を言えば期待以上に美味いパイプ。若干ライトな感じはしますが、スカスカに薄い味ではなくしっかりと旨みだけ残した吸い味でした。少なくとも並のサシエニと同等かそれ以上の味は楽しめるようです。特にヴァージニアの美味さは格別ですね。香り、甘み、共に満足のいくもので飽きずに最後まで吸えます。特にマクレーランドの#5100のようなちょっとクセのあるヴァージニアが美味しく吸えました。あと、チャンバーの極端なテーパー具合が丁度良かったのか、最後まで全く気を使わずに吸い切れるのも良い点です。これは久々の大当たり。これでエボナイトがもう少し柔らかければ、体の一部のように自在に使えるパイプになったと思います。
 とは言え、神懸り的に他と異なった吸い味という訳ではなく、美味いという以外は普通のパイプ。クール&ドライという点だけでは他のメーカー、特にサシエニあたりの製品ではこれ以上のモノがゴロゴロあります(美味いかどうかは別として)。ボウルの冷えが良いように錯覚しがちなのも事実だとは思いますが、これは単に指先の接点が面から点になっただけでしょう。サーモグラフィーか何かで検証すれば何かしら分かるのかもしれませんが、少なくとも煙道側の煙の温度に影響を与える程の冷却効果は無いような・・・。たぶんボウルに触れずに目隠ししてテストしたらわかりません。このあたりの話題に関してはどちらかといえば気持ちの問題なのではないか、と。個人的にはそう考えています。

 ただ、この個体に関しては並以上に美味いパイプであることは事実だと思います。個人的にはその起因はなんなのか?という点については興味がありますね。そんな訳で今回このPunto Oro "SEA CORAL"について出来るだけ詳細な情報を得る為に試しにミラノのサビネリ社にメールを出してみたところ、現当主であるGiancarlo Savinelli氏から返信がありました。こんな極東の1スモーカーの質問に答えて頂き、恐縮です。Grazie Mille.
質問内容はこのパイプの製作時期、Corallo Finishの意味、スペシャルキュアリングの有無、等。全文を掲載するのはなにか問題がありそうなので控えますがおおまかな返答は、
・ Corallo Finishは先代と当時の工場長が最高の喫味を求めて作られたもの。
・ 乾燥は少なくとも3年はしているがそれよりも重要なのはブライヤーの品質。
・ まだ企業秘密で我が社でも私とごく限られた職人のみが製法を知っている。
というようなものです。結論としては木の呼吸が多くなるので喫味が良い、というような感じでした。どうにもブライヤー自体について相当こだわって作られたグレードらしく、選考基準はグレインではなく重さと・・・あとは企業秘密とのお話。これらの作業を総合すると恐ろしく手間が掛かるので価格が高くなってしまうらしいです。

 私個人としての見解としては、このパイプの美味さの根底はブライヤーの質自体にあるように思えます。それを踏まえた上での長時間の乾燥、ラスティック、白木仕上げ、、なのではないか、と。少なくともシーコーラルは一つの要素で出来上がったものではないし、その要素も高品質ブライヤーにかなりの比重があるのではないでしょうか。一見複雑そうでも、蓋を開けてみれば基本に忠実かつ単純なものなのやも知れません。まあ、、この見解は何故、樹齢の高い乾燥したブライヤーが美味いのか?という問にたいして明確な答えが出ていない以上、断定とまではいきませんけどね。

 なんか今回は余談が多くなってしまいました。結論としては、かなり楽しめるパイプだと言えます。細かい事を抜きにしても吸って美味いし、触って楽しいです。サビネリに関しても興味が出てきたのでいずれは同じぐらい古めのPunto Oroでサンドブラストやスムースも試してみたいですね。そうすれば何か違いがわかってくるのかもしれません。
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コメント

「彫り方」はあくまでも一面的なモノ、しかも比較的に重要性の薄い位置にしかなく、その本質はあくまでも(それこそブライヤの選定から始まる)キュアリングのプロセス全てである、ト云う事なんですかね。めっさ面白かった!

自分もsqさんにジャンカルロ・サヴィネッリ社長のメールを見せてもらいました。

コラーロの喫味の秘密は、メールのニュアンスではあくまでブライヤーそれ自身にある、と強調されていた感じです。彫りはコラーロフィニッシュを完成させる<最後の仕上げ>、といった感じでしたね。

さらに、エアキュアを3年もかけておきながらそれを「補助的」と断言しているような口調でした。ある特定の質のブライヤーの選定、そしてその特殊処理があくまでも本質、といった感じです。

資料や証言を駆使してコラーロの謎に迫るエントリ、おつかれさまでした。とても面白かったです。

はじめまして。僕も最近シーコーラルらしきパイプを手に入れたばかりなので、大変興味深く読ませていただきました。
それにしてもシーコーラルって洗えるんですね。ようするにステインが落ちたりするのを気にしなければパイプは洗ってOKってことなんでしょうか。僕のはいまひとつ汚いので、こんど歯ブラシ片手に外側だけゴシゴシやってみようかと思います。

みなさん、どうも。

まだまだよく分らない点もあるでしょうけど、、
少なくとも造り手の方は高品質ブライヤーをかなり意識して
作っているという点は事実なのだろうと思います。
まあ、これはサビネリに限った事ではなく、
カステロにしろベッカーにしろイタリアの高級パイプはブライヤーについて
かなりのこだわりがあるようですが。
いずれにせよ、優れたブライヤーを選別する、というのも
工房や作家にとってかなり重要なスキルなのでしょう。
当たり前の事ではありますが。

ただ、例によって何故そうして選ばれたブライヤーが美味い煙を生むのか?
という疑問に対する明確が答えば出ない以上は、
あくまでも経験上確率が高い、
というような曖昧な事しか言えないのかもしれません。
まあ、このあたりの話は以前は何かわかっていたのかもしれないし、
もしくは今後何かわかるのかもしれませんし、
ひょっとしたら永遠に謎のままなのかもしれませんけどね。


YOSさん、はじめまして。
ブログはいつも楽しく拝見させていただいております。
うーん、、どうなんですかねえ、、この水洗いは・・・。
実際のところ、パイプにステインがあろうが無かろうが
水洗い自体はやろうと思えば出来ますし、
現に実例も何度か聞いた事もあるのですが、
自分は後処理が面倒臭そうなのでやったことは無いです。
何故、わざわざ説明書にそんな事を明記したのかはわかりませんが、
これも何か考えがあってのことだったのかもしれません。
と言うか、この話もサビネリ社に問い合わせるべきでしたね。

そんな訳で私は後々どうなるかわからないので
いつもの軽く蒸気にあてるやり方で汚れを落としました。
結果としてはこっちのやり方の方が水分の蒸発も早く、
汚れ落ちの効果が期待できるように思えるのですが。

sgさん、どうも!
僕のテキトーなBlogを読んでいただいてるとは、身の縮む思いです。どうもありがとうございます~。
というわけで、軽く洗ってみましたウチのシーコーラル。洗ったあと、アルコールで拭くとすぐに乾くのですが、蒸気をあててアルコールで拭いて、というのをやったあとでは、それ以上にキレイになった感じはないかもです。その後吸ってみたわけではないですがね~。
洗ってOKと書かれた時代には、蒸気を当てるという手法がなかったのかも知れませんね。よく考えたら効果的には蒸気のほうが上っていうか。
それにしてもご紹介されているwsbさんのシーコーラルのコレクション、それに昔の栞にしても凄い参考になります。
というわけでウチの場合は何の資料性もないところではありますが、リンク貼らせてもらってよろしいでしょうか?

ぐは!sqさんでした!失礼しました。

どうも。
ええ、リンクの方は貼って頂けるのであれば光栄です。
これからもよろしくお願いします。

どうも!
さっそく貼らせていただきました~。よろしくおねがいします。

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